2017年1月23日月曜日

Dear Evan Hansen あらすじと感想 ストーリーが秀逸

追記 
作品賞、エヴァン役ベン・プラットさん主演男優賞、ハイジ(エヴァンの母)役レイチェル・ベイ・ジョーンズさん助演女優賞をはじめ、トニー賞5部門獲得しました!おめでとうございます!

NY・ブロードウェイのMusic Box Theatreで新作ミュージカルDear Evan Hansenを観てきました。



2017年1月現在、グレートコメット(正式タイトルはNatasha, Pierre & the Great Comet of 1812)を上演しているImperial Theaterのお隣です。

YouTubeで何曲か聴いて曲が気に入ったのと、gleeに双子のチアリーダー役をしていたローラ・ドレイフスちゃんが主要キャストで出ていると聞いて気になっていた作品。出発前にネットでチケットを抑えておこうと思ったのですが私の滞在期間中は全部売り切れていました。派手な作品じゃないけど、口コミでじわじわ人気が出ているみたいです。ところがダメ元でNY到着後にボックスオフィスで聞いてみたところ、普通に週末分の1階席のチケットがゲットできました。ネットで買えなかったからといってあきらめたら試合終了ですね!


ここで簡単に作品をご紹介。

以下、ネタバレ注意!!


登場人物

  • Evan Hansen (Ben Platt)
    本作の主人公。不安障害の高校生。木から落ちて右腕を骨折したためギブスをつけているが、ギブスには誰からのメッセージも書かれていない。
  • Heidi Hansen (Rachel Bay Jones)
    主人公エヴァンの母。昼は看護師として働き、夜はパラリーガルの学校に通っている。夫(エヴァンの父)とはエヴァンがまだ幼い頃に離婚している。
  • Connor Murphy (Mike Faist)
    友達のいない高校生。ドラッグユーザー。コナーの自殺によりエヴァンの運命が動き始める。
  • Zoe Murphy (Laura Dreyfuss)
    コナーの妹。エヴァンの片思いの相手。
  • Cynthia Murphy (Jennifer Laura Thompson)
    コナーとゾーイの母。専業主婦。
  • Larry Murphy (Michael Park)
    コナーとゾーイの父。家族に良い暮らしをさせるために懸命に働くよき父親。
  • Alana Beck (Kristolyn Lloyd)
    エヴァンのクラスメート。野心家でいつも課外活動のネタになることを探している。
  • Jared Kleinman (Will Roland)
    エヴァンの一番身近なクラスメート。

あらすじ

第1幕


高校最後の年の初日の朝。エヴァンの母、ハイジはエヴァンに声をかけるものの二人の関係はぎこちない。彼女はエヴァンのギブスを見て、学校で新しい友達ができたらギブスに何かメッセージを書いてもらったらどうか提案する。その頃、マーフィー家の食卓ではコナーと妹ゾーイ、父のラリーが口論していた。

学校に着いたエヴァンは学級委員気質のクラスメート、アラナや一番仲の良いジャレッドにギブスに何か書いてもらえないか頼んだ。しかしどちらにも断られてしまう。エヴァンはコナーにも声をかけたものの彼はエヴァンに暴言を浴びせて去ってしまった。ゾーイはエヴァンに兄の無礼を詫びる。ゾーイと話せてちょっと喜ぶエヴァン。

エヴァンはセラピーの課題に出された自分への手紙を書き上げた。その手紙にはゾーイへの思いについても綴られていた。エヴァンが学校のコンピューター室でその手紙を印刷していたところ、またもコナーと遭遇する。今朝と違い落ち着いていたエヴァンはギブスにコメントを書いたが、その後エヴァンの手紙を読んでしまう。ゾーイに関する記述を読み怒ったコナーは手紙を持って立ち去ってしまった。

後日、エヴァンは校長の部屋に呼び出された。行ってみるとそこにはコナーの両親が彼を待っていた。コナーの両親はエヴァンにコナーが数日前に自殺したこと、そしてその時の彼のポケットにはエヴァンからの手紙が入っていたことを伝えた。コナーから友人に関する話を聞いたことのなかった両親はエヴァンがコナーの親しい友人であったと勘違いしていた。エヴァンはコナーの両親からコナーの話を色々聞かせてほしいと頼まれ、後程マーフィー家で話をする約束をしてしまう。

エヴァンは全てを友人のジャレドに話した。そして二人はエヴァンが木から落ちた日にコナーと一緒に居たことにして、架空のメールのやり取りを作成した。

帰宅したエヴァンに母のハイジは大学の奨学金の申し込みをしたか尋ねた。しかし、コナーとの架空の友情話に頭がいっぱいのエヴァンは話を聞いていない。ハイジはコナーが自殺したことについても触れたが、エヴァンは「コナーのことは知らなかったから心配いらない」と返した。彼女はギブスにコナーの名前が書いてあることを指摘したが、これは別のコナーだと誤魔化される。

エヴァンは架空のメールのやり取りを持ってマーフィー家を訪ねた。コナーの母シンシアは息子にも友達がいたことを知って大いに喜び、他のメールも読みたいと言った。父ラリーはメールを読んだことでコナーの死をより一層悔やんだ。妹のゾーイは兄とは距離があったため彼の死を悼むことはしたくないと思っていた。しかし、コナーの持っていた手紙の中の自分に関する記述を見つけると、エヴァンに「兄は自分についてどんなことを言っていたのか教えてほしい」と頼んだ。エヴァンは動揺しつつも、コナーは妹を愛していたがそれをうまく言えなかっただけだと伝える。喜ぶゾーイを見てエヴァンは衝動的に彼女にキスをするが、彼女に部屋から追い出された。

しばらくすると、エヴァンはみんながコナーのことを忘れ始めていることに気付いた。そしてコナーの生きた証を残し、彼のような人を支援するためのプロジェクト”コナープロジェクト”を立ち上げることを決意する。ジャレドとアラナもこのプロジェクトの一員になった。マーフィー家もこのプロジェクトに同意した。

プロジェクトの立ち上げ日に、エヴァンはスピーチをオンラインで配信した。コナーの孤独、そして彼との友情に触れたスピーチは多くの人々の共感を呼び、瞬く間に拡散された。スピーチを見て感動したゾーイはエヴァンにキスをした。

第二幕


エヴァンはコナーと過ごした思い出の果樹園を再建するため、資金調達計画をコナープロジェクトのウェブサイトに掲載した。エヴァンとゾーイ、そして彼女の両親との距離は日を追うごとに縮まっていった。その一方、エヴァンは母ハイジや昔からの友人ジャレドとは距離をおくようになった。

ハイジは配信されたエヴァンのスピーチとコナープロジェクトのことを知った。そして良いことをしているのになぜ教えてくれなかったのかとエヴァンに尋ねた。エヴァンはいつも近くにいないのだから話す機会など無かったと怒り、家を出て行った。

家を出たエヴァンはマーフィー家を訪れた。エヴァンはコナーの父ラリーに自分の父親について語り始めた。父は自分がまだ幼い時に離婚していること、その後再婚し自分や母に会いに来ることはなかったこと、コナーやゾーイは素晴らしい父親を持って羨ましいと思っていることを話した。

エヴァンはゾーイにも自分自身の家族のことを話し始めた。エヴァンは話の中にコナーの話題が無かったことに気づき慌てて何か言おうとしたが、ゾーイはもう無理に兄の話をする必要ないと言った。

エヴァンとジャレドのの距離はますます広がっていった。ジャレドはエヴァンに、コナーの死のおかげで憧れの彼女と仲良くなれて、エヴァンにとっては「人生最高の出来事」だたと皮肉を言った。

ある日、ゾーイはエヴァンと母ハイジを夕食に招待した。夕食の席でシンシアとラリーはエヴァンはまるで自分たちの息子のようだと語った。そして、コナーのための進学資金をエヴァンに譲りたいと申し出た。帰宅後、ハイジはマーフィー家は自分たちの家族ではないとエヴァンに強く言った。エヴァンはそれに反論し、自分はいかに彼らに受け入れられているかを話した。

アラナはエヴァンとコナーのメールのやり取りに矛盾点を見つけた。エヴァンは慌ててジャレドにメールを修正するよう頼むが拒否される。エヴァンは自分はジャレドが必要な時にいつも友人としてそばにいたことを強調したが彼は聞く耳を持たなかった。それどころかこれ以上言ったらメールをねつ造したことを世間にばらすと脅した。

エヴァンは今までの嘘をすべて終わりすることを決意した。するとコナーの亡霊(エヴァンの心の中のコナー?)が現れ、エヴァンの嘘を塗り固めて手に入れた幸せな状況を批判した。そして、真実を言ったら周りの人はみんないなくなり最後は一人になるだろうと言った。

アラナはエヴァンとコナーの友情は嘘であると確信し始めていた。エヴァンは何とか本物の友情であることを証明しようとし、コナーのポケットにあった手紙のコピーを彼女に送ってしまった。アラナは手紙を読んで改めて二人の友情は本物だったと思い込むが、それと同時にエヴァンの許可なくこの手紙のことをネットで配信してしまう。この手紙のことは瞬く間に世間に広まった。

手紙のことを知った人々はコナーの自殺は彼の家族が原因だと思うようになり、マーフィー家の人々に嫌な言葉を浴びせた。エヴァンはついにマーフィー家の3人に今まで語ったコナーとの思い出はすべて嘘であることを打ち明けた。シンシアとゾーイは泣き、ラリーはエヴァンへの嫌悪感を示した。

家に帰るとハイジがエヴァンを待っていた。ネットでコナーとエヴァンの手紙を読み、それがセラピーの課題の手紙だとすぐに気付いたのである。ハイジはエヴァンに謝り、エヴァンの父が家を出て行った日のことを話した。そして、エヴァンが自分を必要としているときは必ずそばにいることを約束した。

1年後。エヴァンは大学の進学資金を貯めるために働いていた。彼はゾーイに会うため、真実を話したあの日以来初めて連絡した。2人は例の果樹園で再会した。エヴァンは自分の嘘を謝り、今は本当のコナーを知るために卒業アルバムに載っていたコナーの好きな本リストを順番に読んでいると話した。そして、自分の嘘を誰にも話さなかったことに心から感謝した。ゾーイはエヴァンを許し、あの時はみんなエヴァンのような存在を必要としていたのだと言った。

エヴァンは改めて自分自身に手紙を書いた。本当の自分自身を受け入れて。

感想


心の古傷をぐいぐいえぐってくる作品です。私もエヴァンのように学生時代に周りとうまく溶け込めなくて孤独を感じていた時期がありました。だから彼の思いが痛いほどよくわかったし、エヴァンが嘘に嘘を重ねていく様子を見てもそれを声高に否定する気持ちにはなりませんでした。この作品に共感してしまう人はきっと多かれ少なかれ彼と同じような経験をしているのだと思います。特にSNSが浸透している現代は多くの人とつながっているように見えて実はより孤独を感じやすくなっているのかな。この作品が多くの人に支持されているのはみんな誰かと繋がっていたくて必死にもがいているからではないでしょうか。

出演者の人数は少なめですが、一人一人の演技が光っていました。その中でも特筆すべきなのはやはり主人公エヴァンを演じたベン・プラットさんです。うまく周りに溶け込めない高校生役がぴったりでした。緊張した時にやたら早口で視線が泳いでるときの演技が特に良いですね。この役はただのイケメン若手俳優さんが演じたら薄っぺらい作品になってしまうと思います。彼が演じるから観ている方も作品に入り込めるんだろうなぁ。(余談ですが、日本でエヴァンを演じるとしたら村井良大さんが合いそうだと妄想してました。村井さんは等身大の役を自然に演じることのできる役者さんなので。)

作品全体のとしてはお芝居のシーンが多く、ダンスも無いです。ミュージカルではありますがどちらかというとストレートプレイに近い印象を受けました。曲調や歌い方もポップス寄りなので、普段あまりミュージカルを観ない方にもおすすめできる作品です。メロディーも耳に残るので私も帰ってからホテルの部屋でwaving through the windows口ずさんでましたからね!

舞台装置はいたってシンプルですが、特徴的なのは舞台に出ているSNSの画面です。(一応開演前に客席から撮った写真を載せます。端の座席だったのでうまく写ってませんが背景幕みたいなやつがSNS画面です。)あらすじを読むと分かる通りSNSがこの作品のキーワードとなっているのですが、舞台上に画面を出すのは面白い発想だなと思いました。アラナが手紙のことを配信した時なんかこの画面が効いてましたね。後ろのSNS画面に投稿がうわぁーっと大量に流れてきて、「やめて!配信しないで!」って思っても一度インターネットの海に流れると制御できない、もう止められないという感じがうまく表現されていました。この一気に広まる感じ、フィクションと分かっていても何だかぞわっとします。また、開幕時にiPhoneのアラーム音が鳴るのですが、最初は演出と思わず本当に誰かの携帯が鳴っているのかと思ってしまいました笑


最後に、ステージドアで出待ちをしていたところゾーイ役のローラ・ドレイフスさん、ラリー役のマイケル・パークさん、ジャレド役のウィル・ローランドさんが出てきてサインと写真撮影に応じてくださいました。これからソワレもあるのにわざわざ出てきてくださってとても嬉しかったです!特にジャレド役のウィル・ローランドさんはめちゃくちゃ気さくで役そのまんまでした。周りの出待ちしている人の中にはもう13回も観たと豪語している人もいて改めて人気の高さを実感しました。今年のトニー賞が楽しみですね。